Story-3
自然と造形、いにしえと現代が混在するパブリックアート

最新の文化や情報が集まる「東京」と、日本の原風景を思わせる自然や文化的景観が多数残る「山形」。二つの地を“パブリックアート”という観点で比べると、「現在」と「過去」、「都市」と「地方」の輪郭がくっきりと浮かび上がってきます。
東京の中枢都市・渋谷。その超高層に据えられた展望施設「SHIBUYA SKY」は、都市そのものをキャンバスにしたアートです。見下ろす交差点の点滅のリズムや、ガラスの透明感と吹き抜ける風とが織りなす開放感は、建築と都市の構造が生む“現代の造形美”。都市に流れる時間や行きかう人々の行動が、「まち」というアートとして感じられるでしょう。
山形の冬の絶景「スノーモンスター」。蔵王の樹氷は、風向きや雪質、量が氷点と相まって生まれる偶然の巨大芸術です。昼は白の濃淡が谷を刻み、夜はライトアップにより影が反転して幻想的な群像のコントラストが立ち上がる。人はただその中を歩くだけで、空間芸術を五感で体感することができるでしょう。
巨大なビル群のはざまでアートと人々がひとときの出会いを果たし、メッセージを受け取る東京のパブリックアート。雄大な自然の中で、風景や音にとけこむようにアートと共鳴する山形のパブリックアート。東京と山形、対照的な舞台立てだからこそ、美というものの普遍性と多様性を知ることができるのです。
東京と山形のパブリックアートスポットを巡る
東京
①SHIBUYA SKY(渋谷区)
時の移り変わりが演出する“動的パブリックアート”
渋谷駅直結・直上の大規模複合施設「渋谷スクランブルスクエア」の14階・45階から屋上に広がる「SHIBUYA SKY」。ガラスの手すりと広がる空をフレームにした東京の街並みは、まるで巨大な空間芸術。
昼はビル群や遠くの山並みまでを一望し、刻々と変わる光や雲の影が都市の表情を描き出します。日が落ちてすぐの「マジックアワー」には、空と街がひとつのグラデーションに。夜を迎えれば、下界のスクランブル交差点がまるで動くモザイク画のよう。この“時間の移り変わり”こそが最大の演出であり、訪れるたびに異なる作品として楽しめるのです。
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画像提供
渋谷スクランブルスクエア
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場所
東京都渋谷区渋谷2丁目24-12渋谷スクランブルスクエア14階・45階・46階・屋上
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②「明日の神話」渋谷マークシティ(渋谷区)
日常を急ぐ足を止め、生へのメッセージを刻み込む
出展 岡本太郎記念館
渋谷マークシティのコンコースに掲げられた、岡本太郎による「明日の神話」は、高さ5.5m、幅30mに及ぶ圧倒的スケールで見る者を包み込む巨大壁画です。鮮烈な赤や黄色、黒のコントラストが炸裂する画面は、いたましい悲劇の瞬間を描きながらもそれを乗り越え、人間は高らかに「明日の神話」を生み出すのだ、という岡本太郎の強いメッセージが込められています。「太陽の塔」と対を成す、彼の最高傑作とも言われています。
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場所
東京都渋谷区道玄坂1丁目12−1 渋谷マークシティ2階連絡通路
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③「ルーツ」虎ノ門ヒルズ(港区)
異なる文化や言語をひとつに、平和を願う
ジャウメ・プレンサ《ルーツ》2014年 ステンレススチール、塗装W5.5 x D6.5 x H10m
ジャウメ・プレンサによる大型彫塑作品「ルーツ」。膝を抱えて座る人物の姿を、ステンレススチールの文字で立体化。8言語の文字が編み込まれ、異なる文化や思想がひとつの形に溶け合う“世界の多様性”と“平和的な共存”を発信しています。見る位置や時間によって、文字の隙間から見える風景や光の入り方が変わり、刻々と印象も変化します。
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場所
東京都港区虎ノ門1丁目23 虎ノ門ヒルズ オーバル広場
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④「ママン」六本木ヒルズ(港区)
創造と守護の象徴・蜘蛛に母性を投影
ルイーズ・ブルジョワ≪ママン≫2002年(1999年)ブロンズ、ステンレス、大理石
ルイーズ・ブルジョワによる彫刻「ママン」は、東京・六本木ヒルズの66プラザに常設される高さ約10mの巨大な蜘蛛の作品。
ブルジョワは、創造と守護の象徴である「母」を、蜘蛛が巣を張り外敵から卵を守る姿になぞらえました。昼間は鋭い陰影が地面に伸び、夜はライトに照らされて不穏な影が浮かび上がり……。時間によって印象は一変するでしょう。
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場所
東京都港区六本木6-10-1
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⑤「20世紀文明の化石」清澄白河駅(江東区)
地下という閉じられた場で、都市の記憶と現代の生活を重ね合わせる
出展 東京都交通局
都営大江戸線・清澄白河駅のホーム壁一面を埋める、樋口正一郎作の「20世紀文明の化石」。コンクリートの駅構造と一体化するように金属や廃材、機械部品などが組み込まれ、巨大なレリーフ状の作品が展開されています。
人工的な地下空間に、過去の時間や人の営みの痕跡を持ち込むことで、移動という日常のなかにふと、文明の過去と未来について考えさせる瞬間を生み出しています。
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場所
東京都江東区白河1丁目6−13
山形
⑥四ヶ 村 棚田ほたる火コンサート(大蔵村)
幻想的な空間での感動のコンサート
山形県大蔵村の夏の夕暮れ、「四ヶ村棚田ほたる火コンサート」は静かに始まります。約1,200本のほたる火が淡く揺れる棚田。広大な棚田がコンサート会場となり、夏の虫たちの音にオカリナやピアノの音が重なり、風景と音楽が一体となります。
観客は光の道筋をたどりながら、移ろう自然の色彩や微かな虫の声、遠くの水の音とともに音楽を体感。自然と人、音楽と風景の行き交いを深く記憶に刻みこむでしょう。
※例年、8月の第一土曜日に開催
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場所
山形県大蔵村大字南山 四ヶ村の棚田特設会場
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⑦ひじおりの灯(大蔵村)
住民の思いや土地の記憶をめぐる参加型アート
肘折(ひじおり)温泉の夜をやわらかな光で包み込む「ひじおりの灯」。旅館や商店の軒先に置かれた色鮮やかな灯籠が、人々の歩みに呼応するように揺らめきます。
灯籠には、山形に縁のある若手アーティストによる物語が描かれています。周囲の自然や食文化をモチーフに、肘折に息づく情景が鮮やかに表現されています。
温泉街を舞台に、地域の暮らしや歴史に寄り添いながら、日常の延長に灯りをともしています。
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場所
山形県大蔵村肘折温泉
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⑧蔵王のスノーモンスター(山形市・上山市)
人の手では作り出せない、自然の驚異が生む芸術
蔵王連峰に冬の季節だけ現れる樹氷、通称「スノーモンスター」。凍った雪と氷が強風にさらされ、樹木の枝葉や幹を覆い尽くすことで、昼夜で表情を変える幻想的な群像に。
朝日に照らされると白色が空と溶け合い、夕暮れには樹氷の影が山肌に長く伸び幻想的。夜間のライトアップでは、金属的な冷たさを帯びて幽玄な雰囲気に。
同じかたちは二度と現れない、冬の山形を象徴する自然のパブリックアートです。
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場所
山形県山形市蔵王温泉229-3
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