Story-1
浮世絵でひもとく江戸の暮らし。
「都」と「地方」の豊かな交流。

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出典 広重『東都名所芝赤羽根増上寺』.
国立国会図書館デジタルコレクション

いま、浮世絵は国際的な再評価が進み、もはやブーム! 葛飾北斎や歌川広重といった巨匠たちの作品が海外の美術館やオークションで高く評価され、日本の文化的遺産としての価値が改めて知られるようになりました。写実と幻想がとけあう奇想の画家・伊藤若冲や、ユーモアと風刺に富んだ歌川國芳などは、サブカルチャー的文脈でも人気です。
最近はデジタル技術の進歩によりアニメやファッション、現代アートとのコラボによって新たなファンも増え、いまや浮世絵は過去の芸術ではなくリアルタイムな存在に。
なかでもひときわ大胆な構図や遠近法を用いて叙情的な風景を作り出したのが歌川広重。江戸時代後期、彼は江戸から遠く離れた天童藩(現在の山形県天童市)織田家と親交がありました。その縁から生まれた肉筆画は200〜300幅にものぼり、現在では「天童広重」と呼ばれています。広重と天童の関係。それは、江戸の町人文化が大名や地方まで浸透していたという文化交流の一端を鮮やかに示しています。

東京

①太田記念美術館(渋谷区)

落ち着いた展示空間と丁寧なキュレーションで、静かに名作と向き合える貴重な場に。

太田記念美術館

出典 太田記念美術館

太田記念美術館

出典 太田記念美術館

収蔵点数は約15,000点、江戸時代から明治・大正期にかけての浮世絵を幅広く網羅している浮世絵専門の美術館。
太田記念美術館の最大の特徴は、常設展示を置かず、すべて企画展形式によって展示内容を定期的に入れ替えること。毎回ユニークな視点でテーマを絞った展覧会を開催し、さまざまな角度から浮世絵の魅力を紹介しています。展示解説には英語表記もあり、海外からの来館者にも細やかに配慮。講演会やワークショップなどの関連イベントも不定期に開催されています。

②東京国立博物館(台東区)

浮世絵を体系的に学び、鑑賞できる日本最大規模の博物館。

東京国立博物館

出典 東京国立博物館

東京国立博物館

出典 東京国立博物館

所蔵する浮世絵は版画から肉筆画まで多岐にわたり、葛飾北斎、喜多川歌麿、歌川広重、東洲斎写楽、歌川國芳などの代表的な作品を網羅。北斎の『冨嶽三十六景』や広重の『東海道五十三次』といった名シリーズは国内外から多くの注目を集めています。

東京国立博物館

出典 東京国立博物館

特別展や東博コレクション展では、国宝級の作品が一堂に会する機会も。過去には特別展「写楽展」や「北斎展」などが開催され、いずれも大好評!
またミュージアムショップには、浮世絵や展示作品、関連図書をモチーフにしたオブジェや文具、ファッショングッズなどが多彩に並び、いつもの暮らしの中に美しい作品を取り入れることができます。

③すみだ北斎美術館(墨田区)

葛飾北斎の画業とその生涯にふれる。

すみだ北斎美術館

撮影:尾鷲 陽介

江戸時代を代表する浮世絵師・葛飾北斎は、このすみだ北斎美術館が立つ地域で生まれ、およそ90年の生涯のほとんどを過ごしました。

すみだ北斎美術館
すみだ北斎美術館

出典 すみだ北斎美術館『北斎を学ぶ部屋』
北斎のアトリエ再現模型

ピーター・モースコレクションや故楢﨑宗重コレクションをはじめとした収蔵物は、版画や肉筆画、下絵、門人の資料など約2,200点(2024年4月現在)。「冨嶽三十六景」などの代表作はもちろん、一般にはあまり知られていない実験的な作品やスケッチも含まれており、北斎の創作の広がりを多面的に知ることができます。

④浮世絵の舞台(京橋/新大橋/永代橋/日本橋/湯島天神)

多くの浮世絵師たちが愛し、描いた江戸の名所たち。

浮世絵の舞台

出典 広重『名所江戸百景 京橋竹がし』
,魚栄,安政4. 国立国会図書館デジタルコレクション

江戸の名所は、浮世絵師が繰り返し描いた人気のモチーフ。風景として美しいだけでなく、特別な意味や機能を持っていたからこそ、好んで描かれたのでしょう。

浮世絵の舞台

出典 前北斎為一『冨嶽三十六景』.
国立国会図書館デジタルコレクション

日本橋は五街道の起点、江戸の心臓部。葛飾北斎は『冨嶽三十六景 日本橋江戸橋』において、橋上を行き交う商人たちと、背景にそびえる富士山を描いています。都市の賑わいと自然の雄大さを一画に収め、日本橋が持つ象徴性を際立たせています。
満月に照らされた京橋と、京橋川のほとりにある竹河岸(竹材の市場)とを描いたのが『名所江戸百景 京橋竹がし』。居並ぶ竹材の直線の密度、奥行きを迫力ある遠近法で描いた広重は、すぐ近くの常盤町に住んでいたとされています。

浮世絵の舞台

出典 広重『江戸名所』
永代橋佃島,藤慶. 国立国会図書館デジタルコレクション

永代橋は隅田川に架かる橋で、深川と本所を結ぶ交通の要所でした。歌川広重「永代橋佃島」では、帆掛け舟が下を通るために橋脚が非常に高いのがよくわかるアングルで描かれています。

浮世絵の舞台

出典 広重『江都名所』
湯しま天満宮,喜鶴堂. 国立国会図書館デジタルコレクション

広重は、「江都名所 湯しま天満宮」に学問の神さま・菅原道真に詣でる人々を描きこんでいます。ここで売られている富くじに願いを託す人も、きっと多かったことでしょう。
葛飾北斎の構成力、國貞の洗練された人物描写、国芳のユーモアと劇的な構図といった個性豊かな表現によって、江戸の橋や社寺は単なる「背景」ではなく、物語を動かす舞台として描かれました。浮世絵は、これらの情景を通して、江戸という都市の生命力を今に伝えています。

山形

⑤広重美術館(天童市)

人間味に満ちた広重の横顔が見えてくる。江戸文化と地方文化の融合。

広重美術館

江戸時代後期の浮世絵師・歌川広重と天童藩との縁を背景に、広重の芸術を多角的に味わえる「広重美術館」。「天童広重」は、幕末の財政難に苦しんだ天童藩が、江戸詰の藩士や藩医などを通じて広重に絵を依頼し、藩の支援者たちへの返礼品として配布した一群の作品。絹本に描かれたこれらの肉筆画は、一点ごとに筆の勢いや息遣いが感じられるいきいきとした迫力が持ち味です。

広重美術館
広重美術館

出典 広重美術館
六十余州名所図会 出羽最上川月山遠望

広重美術館

出典 広重美術館
吉野之桜 龍田川之紅葉(天童広重)

初代〜五代広重をはじめ同時代に活躍した絵師たちの浮世絵をコレクションし、作品保護のため毎月作品を入れ替えて、さまざまなテーマで企画展を開催。「天童広重」の公開は年に1回なので、展示スケジュールのチェックをお忘れなく。2024年には1階の一部をリニューアル、カフェや物販スペースで観光地・天童ならではのおもてなしが楽しめます。